「神の手をも動かす勝利」
展望 アジアカップ決勝戦、相手はFIFAランキング64位(7月現在、最新は51位)のホーム中国、会場は中国の首都北京である。6万人以上収容のスタジアムのサポーターは圧倒的に中国人ばかりで、日本人は高々数百名程度である。試合そのものは11対11で行われるが、日本にとってアジアカップにおける最もアウェイの戦いが想定される。いつものように、私は中国の試合を見ていないことをご理解いただきたい。 中国の公式的な記録を確認しておこう。バーレーン(日本は延長4-3)に2-2、インドネシアに5-0、カタールに1-1と勝ち点7、8得点2失点でグループリーグを突破し、トーナメントでは準々決勝イラクに3-0、準決勝のイラン(日本はGLで1-1)に1-1(PK4-3)でこの日本戦に至る。また、これまで中国戦でイエローカードが出されなかった試合はなく、対戦相手は多数のカードをもらい、退場も珍しくない。試合自体がエキサイトしがちなのかもしれないが、日本戦のこれまでのジャッジを考えれば、どう好意的に見ても公平に裁いているとは思えない節がある。戦術的に詳しいことはわからないが、ホームの利が生きていることだけは間違いないようである。 一般的に、決勝戦というものはどちらのチームの試合運びも慎重になる傾向にあり、先取点が試合の流れを大きく動かす可能性は非常に高い。ここで私が最も警戒することは、中国の勢いである。 日本の失点はスロースターター気味の序盤に喫することが多く、下手をすれば中国の勢いをさらに加速させ、厳しい時間帯をより長く耐えることを強いられるだろう。そこから逆転することは、これまで以上に困難になるはずだ。技術的には日本に分があり、総合力でも勝っている(中3日ならば、それなりに疲労は癒されているだろう)とはいえ、中国の勢いはそんなアドバンテージを凌駕するだけの危険性がある。 予想スタメン 私個人として西選手のスタメンを希望するが、出場停止の遠藤選手に中田選手が代わる以外は不動のメンバーで来るだろう。私は90分以内で2-1で日本の勝利と予想する。1点は中村選手のセットプレー絡み、もう1点はフォワードに取ってもらいたい。 試合前日の会見でやや挑発気味の質問を受けたジーコ監督は、日本の決勝進出は決して運だけではなく実力であると主張していた。彼もブラジル人なりに反日感情を感じ取り、良い意味で試合にぶつけてくるのではないだろうか。決勝戦で勝つための戦術はジーコ監督に充分指示され、選手間で共通理解があるはずである。負けて一番悔しがるのはジーコ監督本人かもしれない。 大多数の中国人に支持されるヒーロー中国に対して、わずかばかりの日本人にのみ指示されるヒール日本という図式が見える。試合と関係ないいざこざも入り乱れ、試合のムードも最高潮に盛り上がるだろう。この試合が終われば、お互いの遺恨が多少は緩和され、お互いに尊重できるようになることを願うばかりである。 前半 君が代、試合開始から激しいブーイングを食らう。 決勝戦らしく、落ち着いた出だしであった。中国はラインをコンパクトに保つ超密集戦法、ゴール前の中央をがっちりと固めており守備的意識が高い。やや硬いようにも見える。一方の日本は、運動量もそこそこあり、これまでで最も身が軽るように見える。スロースターターではないようだ。 中国はサントス側のサイド突破を狙っているようだ。得意の縦の突破を生かし、精度はともかくミドルシュートを打ってくる。しかし日本は、それでも動揺することがない。 22分、中田選手のボールを受け倒された中村選手がFKから、鈴木選手のポストプレイで、中央の中西選手がヘディングでゴールする。決勝戦における先制点は大きいようで、日本の勢いが増し、プレスも早くなったようだ。 しかし31分、日本の失点パターンの一つである最高のプレイによる失点を喫してしまう。ただし、これはマークし損ねた加地選手に大きな非があるだろう。しかし、日本は勝利を確信しているのか、決してリズムを崩すことがない。これがアジア杯で見られる日本の強さでもあろう。 その後、不自然なジャッジが目立ち、ジーコ監督もいきり立っているようである。確かにここ最近でも相当ひどいジャッジだった。技術的になぜ中国が決勝進出できたのかやや疑問を持ったが、ここは日本の我慢の時間帯なのか、中国のミドルシュートなどを被弾し、やや中国のリズムで前半は終わる。 後半 ハーフタイム中の交代はない。 やや膠着気味の出だしである。日本はセットプレー、中国はサイドアタックの分が良いだろうか。 試合の命運を分けたのは、12分ヘッドギアみたいなものを装備していた9番のフォワードの交代だったのかもしれない。 20分、中村選手のCKから中田選手が身体というか神の手で押し込み、ついに勝ち越しに成功する。こうなれば得意の省エネ戦法という勝ちパターンがある。 30分くらい以降、がむしゃらな中国の猛攻をしのぐ消極的な時間が続く。特にサイドアタックはひやりとさせられるものもあったが、ここは川口選手のファインセーブに救われる。これもまた神の手のようである。 しかし、47分、中村選手のスルーパスを玉田選手がこの日最高のタイミングでもらい、事実上のゴールデンゴールのような、駄目押しゴールを決める。これで日本の勝利にケチをつけることはできなくなった。 まとめ 優勝したことは喜ばしいのだが、戦術的には致命的なミスがあった。それは両ウィングの守備力である。中国は特にサイドアタックを得意としており、日本のサイドの守備力のなさに上手くはまった形となった。技術的には明らかに日本が上だったものの、そのせいで中国(J1の上位単独チームくらいだろうか)を下手に調子付かせてしまったような気がする。第三者からすれば、両ウィングが中国対策を遂行できていないため、ジーコ監督がより守備的に安定しているサイドを投入するべきだったように思う。 中国は2002年のワールドカップに比べると、総合的には数段レベルが上がっていたことがわかった。選手個人については、特に頭にネットをかぶっているフォワードの飛び出しとマンチェスター・シティに所属する7番らが非常に危なかった。戦術的には、ラインをコンパクトに保ち、サイドアタックを機能させる(確かにこれは見事にはまった)成長が見られたものの、根本的には非常に典型的イノシシサッカーであることに変わりはなかった。 日本の先制点のシーン(中村選手のFKから鈴木選手がシュートするのではなく、中央の福西選手へポストプレイ)のように、イノシシサッカーの致命的な弱点は横に振られることにある。縦に対する意識は非常に強く、フィジカルも生かしたその突進力は日本に勝っていたと思われる。しかしそれとは対照的に、横に展開された途端、それについていくだけの頭脳の訓練がなされていないため、どフリーにさせることも珍しくないのである。 私ごときのサッカーの話をさせていただくと、イノシシタイプと戦うとき、突進してくる相手の裏にスペースが生まれやすいため、近くの味方とにパスを出し、すぐにそのスペースでボールをもらうように走りこむという闘牛士のようなプレイは、相手の意図を見透かすようで大好きである。個人的にイノシシは最も戦いやすい大好きなタイプで、このような原始的な戦術を「素人っぽい」と否定的に表現することもある。 もちろん中国の技術は私などの比ではないため、そのような致命的な弱点は修正されている。ディフェンスラインを押し上げることでスペースをより小さくし、単独ではなく複数で突進することでその威力を高めていたように見えた。さらに攻撃のポイントとして、縦への突破を生かすべく3-5-2のシステム上の弱点となるウイングバックの裏、3バックではカバーしきれないスペースをカウンターアタックで執拗に狙い、スペースや日本に隙があれば積極的にミドルシュートを放っていた。不動の日本メンバーを分析し、運動量の少なさとサイドの脆さを良く理解していたようだ。これがホスト国中国の躍進のエッセンスの一つであろう。 それでもなぜ日本が優勝できたのかと考えると、はっきり言って他アジアに比べ基本的な技術にレベルの差がありすぎたことも事実であろう。私個人としてはジーコ監督を支持するつもりはあまりない。その最も大きな理由が、理解しがたい不動のメンバーである。今夜の試合もこれまでも両サイドバックを狙われているにも関わらず、交代させるつもりはないようである。三浦選手、西選手の方がずっと安定して機能するように思う。もっと確実に勝つべきである、悪運が尽きれば負けかねない試合だった、これではドイツに行けない、それはジーコ監督お気に入りのスタメンのせいである、というのがジーコ不支持者の世論であろうか。 それはともかく、私が着眼してきたのは監督ではなく、選手達である。私のようなサッカー経験者からすれば、監督がピッチに立って実際にプレイするわけではない、という意見も理解できる。わかりやすく例えると、それが遊びであれ、サッカーをやるときに、監督がいないと困りますか、自分達だけでは何もできませんか、立場が上の人間に命令されないと日本人はダメですか、ということである。その考えが必ずしも間違っていないことは、これまでの結果によって証明できるという説もありだろう。 このアジアカップ最大の収穫は、ジーコ監督の不手際に影響されたとしても、選手が自発的にチーム戦術を構築しようとし、どんなコンディション、どんな事態にも混乱することなく、タフな精神力を養うことができ、優勝という結果も残したことであろう。良い意味でも悪い意味でも試合中落ち着いているような印象もあるが、選手が口をそろえて「チームの雰囲気は良い」と肯定的にコメントするあたり、ジーコイズムが浸透し、自信をつけてきた証拠なのかもしれない。 今夜の中東出身のレフェリーは、皆さんもお分かりのように、国際試合を裁くにはありえないというレベルの低さだった。正直Jリーグで経験を積んでいるレフェリーの方が明らかに質が高いだろう。アジアのサッカーのレベルが上がった一方で、レフェリーのレベルは取り残されてしまった。 最近のサッカー観戦者の質と比較すると、一部の中国人のマナーの悪さは指摘せざるを得ない。試合中のブーイングは世界中のあらゆるスポーツで聞かれるが、試合前の国歌斉唱時と試合終了時のブーイング、さらに試合中ピッチに物を投げ込む行為については、世界的に見ても例外的な無礼である。 日本サッカー界の教育方針に従えば、対戦相手を尊重し、またその会場にさえも感謝するようになる。私もそのような畑で育てられた人間の一人なので、アジアカップで見られた中国人の非礼は正直許しがたきものがある。私がこれまで経験してきた(見る、やるの両方)少なくとも数百試合のサッカー統計を振り返っても、試合終了後これほど不快な思いをしたことはないような気がする。 ただし、変な中国人もいるだけで、一般的な中国人はもっとまともであると願っている。13億の中国人(日本の10倍)の6万人を日本のスケールに変換すれば、スタジアムに観戦するたかが6000人の例外なのかもしれない。 放送陣に対して 多少まともなコメントもいくつかあったとはいえ、これまでのアジアカップの放送を考えれば、それは意図したものではなくたまたまである。基本的にこれ以上コメントすることはないということだけである。 いくつか気になったコメントについてツッコミを入れて、テレビ朝日に対する別れの言葉に代えたい。 (前半福西選手の先制点が決まって、松木氏) 「(中国人サポーターには)シ〜ンとしてもらいましょうねぇ」
彼は元々攻撃的なフォワードだったらしく、やはりこのブーイングには苛立ちを感じていたのが明らかになった。気持ちはわかるが、興奮しやすい相手を挑発する必然性はあまりない。(前半終盤、奇妙なタイミングでウェーブが起こると、田畑氏) 「よくわからないところでウェーブが起こるんですが・・・?」
ハーフタイムにでも、その謎のウェーブを見せてもらいたかった。それぞれが勝手にウェーブをやって、ウェーブ同士が衝突するという話もどこかで聞いた。(後半ジャッジに対して中国人サポーターが物を投げ込んで、セルジオ氏) 「レフェリーに対して(物が投げ込まれているので)ですから安心ですね」
いや、物が投げ込まれること自体非常に危険で、最悪試合を中止にさせる可能性もある。また、そういった発言は審判は物をぶつけられて怪我しても良いと捉えかねないが。もし私ならば、日本のファンは決して真似しないように、と冷静さに訴えかけるところだ。採点の比較右の列の赤字部分は「サッカーマガジン」より引用しています。
本日のMVPは複数存在する。候補は川口選手、中澤選手、中村選手のマリノス関係者3名である。ファイン・セーブ連発、アジアカップ最強のディフェンダー、2アシスト、どれがベストか限定することはあまりに難しすぎる。そして、彼らはアジアカップにおけるベストプレイヤーの一人でもある。 今日の試合でも悪い選手を探す方が難しい。もちろん決定的な弱点となったのは両翼である。このような失点傾向があるのは気になるが・・・。 ゴールキーパーについて、失点は彼のミスではなく、飛んだコースも完璧だったことを褒めるべきだろう。 ディフェンダーについて、後半の中盤あたり、これまでの失点パターンのように消極的になり、両サイドのカバーまで大変だったが、最終局面でミスをしないことは平均点以上の評価をして良い(中澤選手は攻撃参加を含む)。 ボランチについて、福西選手は注意するべきプレイの対応のタイミングが素晴らしく、中国の好機を何度も潰した。中田選手は試合勘も本調子のようで、特に得点シーンに絡む点で目立った。ゴールはジーコ監督から授かった神の手ゴールのように見えた。両翼について、サントス選手は攻守のムラがありすぎる。攻撃力は素晴らしいとはいえ、その後の守備に関するカバーや意思に乏しいようだ。それも彼の特徴とチームで助け合っていることはわかったが、狙われていることは明らかにマイナスだった。 加地選手は攻撃でも守備でも貢献できず、サイドとして孤立してしまった。1失点は彼の粘りのない守備によるものと考えている。中村選手は後半多少ガス欠気味だったものの、前半のキレはこれまでのベストだったかもしれない。 フォワードについて、鈴木選手は1アシストの活躍、アジアカップでベストだったかもしれない。今後はもっと積極的にシュートを打てるようになって欲しい。玉田選手は縦に強い中国と相性が良くなかった。しかし、最後に駄目押しの1点でこの勝利を揺るぎなきものにした功績を評価。 ジーコ監督は不動の両翼と失点しそうな時間帯に相変わらず交代させなかったことは批判されても擁護できない。しかし、結果だけは紛れもない説得力がある。 |
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